イベントレポート「ヘルステック企業でのテックリードの役割とキャリアパス ~事業課題解決のためのエンジニアリングとは~」(後編)
2024年9月18日(水)、株式会社エクサウィザーズと株式会社iCAREの共催で、テックリードをテーマにした、イベントを開催。今後のキャリアの選択肢として、テックリードをお考えの方を対象に、ヘルステック領域ならではのエンジニアのチャレンジについて、それぞれの講演とディスカッション形式で話してもらいました。
前編では、各登壇者の講演内容のレポートでしたが、後編では、登壇者お二人のパネルディスカッションです。
パネルディスカッション①「プロダクト組織の体制について」
高松:それでは、パネルディスカッションに入っていきたいと思います。まず、1つめは「プロダクトの体制について」それぞれ教えて頂けますでしょうか。
エクサウィザーズは細分化された組織構造
佐藤:弊社エクサウィザーズ全体でいうと、エンジニアは100人以上いると思います。機械学習エンジニアなど、様々な職種のエンジニアを全て含めるとそのくらいになります。ただ、業界が多岐にわたっているので、プロダクトごとに分けると、CareWizでは15人くらいで開発しています。
特に先ほども話したように、うちのプロダクトは多数あるので、一つのプロダクトを全員 みんなで開発するというよりは、たくさんの異なるプロダクトを出すことが直近のトレンドです。15人くらいいる中で、さらに小さなチームを作り、各プロダクトごとにテックリード的な役割を持った人が中心となって、2、3人のチームで様々な開発をしています。
エクサウィザーズの中に小さなベンチャー企業があり、その中でもたくさんのプロダクト部署があるような感じです。かなり細分化された組織構造になっています。
高松:ありがとうございます。佐藤さんはテックリードとしてチームづくりや体制づくりをされていると思いますが、CareWiz事業部はプロダクトが5つも6つもあって、2つや3つの新しいものを並行して開発しているような状況だと思います。人員が足りない中でやっていらっしゃると思いますが、組織づくりや体制づくりをする上で気をつけていることはありますか。
佐藤:はい。先ほどお話ししたように、たくさんのプロダクトを展開し、さらに増やしていこうとしている中で、人員は限られています。新しいプロダクトを立ち上げる際には、そもそもそのプロダクトがうまくいくかどうかわからない状況で開発しなければならないこともあります。
また、開発の人員も少ないので、なるべく開発する範囲を最小限に抑えるようにしています。
これは企画段階から意識することが大切だと考えています。そうすることで、1人か2人、大きくても3人くらいの小規模なチームでもアーリーステージのプロダクトを作れると思います。
ビジネスサイドのメンバーと、本当に必要なコアな機能は何かを最初の段階でしっかり話し合います。そこから、うまくいっていると判断できれば、チームとして拡大していくという形で進めています。
iCAREは「チームトポロジー」を参考にした組織体制
高松:ありがとうございます。iCAREさんはどのような組織体制で開発を進めていますか。
工藤:はい、iCAREは少し対照的かもしれません。先ほどお話しした健康管理クラウドは、約30名強の組織で開発しています。
プロダクトとしては一つの大きなアプリケーションを開発していますが、プロダクトエンジニアチーム、プロダクトデザインチーム、SREチーム、QAEチームなど、チームごとに役割を持ちつつ、課題に応じてコラボレーションをしながら開発を進める体制となっています。
組織設計の考え方は「チームトポロジー」という書籍を参考にしつつ、プロダクト課題や組織課題にあわせ適宜チューニングしています。
フェーズごとにアップデートする組織体制
高松:なるほど、ありがとうございます。プロダクト自体が8年を迎えるとのことですが、プロダクトのフェーズに合わせて組織体制は変更されてきましたか。
工藤:はい、かなり変わってきました。2016年にCarely健康管理クラウドをリリースし、組織が大きく成長したのは2020年頃からです。事業のスケールに伴い、複数チームで開発・運用を進めるようになりました。現在の規模感になったのは2年前くらいですね。
その時々のプロダクトの戦略や課題に応じて、組織設計もいろいろと試行錯誤を続けている状況です。
高松:今後、変えようと思っている部分はありますか。
工藤:実は今年の8月1日から弊社の新年度に入り組織設計を変更したばかりで、その効果を確認している段階です。現時点では良い立ち上がりをしていると感じています。具体的には、プロダクト開発・運用全面を管掌するマネージャーが前年度は不在だったので私が担っていましたが、新たにマネージャーを任命し、うまく回り始めています。
高松:なるほど、ありがとうございます。エクサウィザーズでは、今後の組織変更のプランはありますか。
佐藤:はい、うちのプロダクトはまだ比較的アーリーステージですが、先行して出したプロダクトが3年目を迎えるなど、徐々に成長しています。恐らく4年、5年と経過していくと、先ほど工藤さんがおっしゃっていた「守り」の部分がどんどん重要になってくると思います。
現在は「攻め」の開発をするための組織体制ですが、少ない人員で「守り」もできるような体制を作っていく必要があります。現在のスモールチームだけでは難しくなってくると思うので、マルチプロダクトをうまく守っていくための組織作りを考えていかなければならないと思っています。
高松:ありがとうございます。本日のテーマはテックリードでしたが、iCAREさんの求めるテックリード像があれば、ぜひお話ください。
工藤:はい。弊社のプロダクトのリリースから8年経ち、毎年機能追加やアップデートを重ねてきました。きれいに保つ努力はしていますが、いわゆる技術的負債のようなものもそれなりに蓄積されています。
表面的に問題に見える部分や気になる点はエンジニアとしても気になるのですが、そういった表面的な問題が本当に今解くべき課題なのか、もっとコアな部分に課題があるのではないかというところに、私自身がフォーカスしきれていないという反省があります。
そういった課題に一緒に取り組んでくれるテックリードがいると、課題解決のスピードが上がっていくのではないかと思っています。
パネルディスカッション②「エンジニアのキャリアについて」
高松:ありがとうございます。では次のテーマに移りたいと思います。エンジニアのキャリアパスについてお聞きしたいと思います。テックリード、エンジニアリングマネージャー、VPoE、CTOなど、エンジニアのキャリアの先には様々な種類がありますが、それぞれの役割の違いをどのように認識されていますか。
テックリードとエンジニアリングマネージャー、それぞれの役割
佐藤:エンジニアリングマネージャーとテックリードの違いについて言えば、テックリードはやはり技術戦略をどのように進めていくかを考える役割が大きいと思います。スケーラビリティやリスク管理など、技術の観点からプロダクトを評価し、先を見通す能力が重要になってきます。
一方、エンジニアリングマネージャーは、ピープルマネジメントの要素が強くなります。育成や採用、組織やチームをどうするかといったことを考える役割だと思います。
また、エンジニアリングマネージャーになると実際のコーディング作業はしなくなるのかというご質問もいただいていますが、私の経験では、コーディングの時間は確かに少なくなりますが、アーキテクチャ設計やプロダクト設計などは今でも行っています。
ピープルマネジメント寄りの役割に就いたとしても、技術力を発揮する場面は多くあります。例えば、新しいプロダクトを作る際に、どのような設計にすべきか、そしてその設計を実現するためにどのようなチームを作ればソリューションを早く提供できるかを考えるなど、技術とマネジメントの両方の視点が必要になります。
役割としては技術寄りかピープルマネジメント寄りかの違いはありますが、やっていることとしては常にサービスを作るという意識があります。純粋に人だけに向き合うというわけではありません。
技術的意思決定がキャリアアップに繋がる
工藤:テックリードに技術以外の部分をどれくらい求めるかは、事業や組織の状況によって異なると思います。特に事業会社において、ドメイン知識の理解をどこまで求めるかの期待値調整は非常に重要だと考えています。
例えば、長年開発を続けデータ構造が複雑化したデータモデリングの課題を解く場合、本当にドメインに深く入り込まないと、本質的な課題解決につながるアプローチを組み立てることは難しいと思います。そういった部分に興味関心を持てる人材であれば、より活躍しやすいのではないでしょうか。
また、「攻守バランスの良いテックリードになるために、どのような経験を積めば効率的にキャリアアップできるか」というご質問をいただいています。まず、「攻」の部分は比較的経験を積む機会が多いと思います。
一方、「守」がポイントになると考えており、例えば、リファクタリングを行う際に、単発的に行うのではなく、現在の内部品質の状態を評価し、課題がある部分を特定し、それを解消して品質を高めていく戦略を立てるといった、技術戦略的な意思決定をする経験をどれだけ積めるかが、キャリアアップの上で大切だと思います。
私自身もそうやって育ってきましたが、様々な経験を積み重ね、失敗から学ぶことで徐々に精度が上がっていき、より大きな役割を任せてもらえるようになっていくのではないでしょうか。
テックリードの役割の設計の仕方
高松:ありがとうございます。iCAREさんではテックリードの役割を設計中とのことでしたが、誰がどのように設計を進めているのでしょうか。また、設計する上で難しい部分や進めづらい部分などはありますか。
工藤:テックリードに限らず、現在の評価項目を全面的に見直しを進めています。マネージャー、そして人事とともに協力して設計を進めています。
特にテックリードのような役割に関して難しいと感じているのは、技術面をどの程度具体化するか、あるいは抽象化するかというバランスです。現在はこの点について悩みながら取り組んでいる状況です。
高松:佐藤さんはいかがですか。
佐藤:そうですね。テックリードに求められるスキルを具体化するのは非常に難しいと感じています。先ほどもお話ししたように、フロントエンドやバックエンドなど、特定の技術に強くなることは求められますが、CareWiz事業部では、個々人がすべての領域で極めて強くなる必要はないと考えています。
むしろ、「チーム全体として技術スキルを発揮できる体制」を、テックリードがいかに引き出せるかが重要だと思います。例えば、バックエンドの方が得意なテックリードがいた場合、必ずしもフロントエンドを自分でやる必要はありません。その場合、フロントエンドに強い人材をうまく活用しながら、全体のパフォーマンスを高めていくことが大切です。
ただし、そのためにはある程度フロントエンドの知識も必要です。つまり、一人が何でもできる万能人である必要はなく、チームとして成果を達成できる人材が重要だと考えています。
パネルディスカッション③「最近のエンジニア採用トレンド」
高松:ありがとうございます。最後のテーマに移りたいと思います。最近のエンジニア採用トレンドについてお聞きしたいと思います。これからどのような人材を採用していきたいか、どのようなキャリアの人を求めているかについて、お二人の考えをお聞かせください。
ミッションに共感し、社会課題解決へのモチベーションが価値に繋がる
工藤:はい、ありがとうございます。キャリアの面で言うと、ある程度エンジニアとしての経験を積んでいる、いわゆるシニアレベルという方を求めています。
これは、先ほども申し上げた技術課題の複雑性や難易度が比較的高いためです。そういった問題に対して、ある程度の解決策の引き出しを持っている、あるいはこれまでに類似の経験をしている方の方が、バリューを発揮しやすく、活躍しやすいと考えています。
そういった経験を持つ方で、なおかつ「働くひとの健康を世界中に創る」という我々のパーパスに関心を持ち、技術課題の解決を通じて社会課題の解決にも貢献したいというモチベーションの高い方に来ていただけると嬉しいですね。
高松:ありがとうございます。少し意地悪な質問になるかもしれませんが、iCAREさんにテックリードやCTOとして工藤さんが採用されるとしたら、どのような経験が売りになりますか?この経験があればiCAREに入りやすいとか、ヘルスケア業界で活躍しやすいといった特徴はありますか?
工藤:そうですね。一番分かりやすい点で言えば、BtoBのSaaSアプリケーションの開発・運用経験がある方は、比較的即戦力として活躍しやすいと思います。技術的な課題やアーキテクチャ面の課題は、大体似たようなものがあると思うので、立ち上がりも早いでしょう。
高松:ありがとうございます。佐藤さんはいかがですか。
チームで推進できるカルチャーフィットの重要性
佐藤:実は、絶対にこの経験が必要というものはそれほど多くありません。ウェブアプリケーションをよく扱っているので、その辺りの技術スキルを持っている方や、それらを運用・開発した経験がある方は、即戦力という観点では求めています。
ただ、それ以外はあまりこだわりはありません。また、介護領域に必ずしも強い熱意がある必要もないと考えています。大切なのは「共感性」ですね。我々がやりたいことに対して、自分ならどのように貢献できるかを考えられる方、人やチームに寄り添える方、チームの中で求められている役割をしっかり自分で考えられる方を求めています。
これはやや人間性に関わる部分ですが、そういったところに面白さを感じていただける方、一緒にワイワイと楽しいことをしようという勢いのある方を求めています。我々のチームの雰囲気もそのような感じなので、カルチャーフィットという観点からも、そういった方を採用したいと考えています。
高松:ありがとうございます。最後に、お二人に今日の感想をお聞きしたいと思います。いかがでしたか?
佐藤:今回、工藤さんのお話を聞いて、我々も今後数年経つと、iCAREさんと同じようなフェーズを迎えるのだろうと思いました。今回聞いたお話は、我々が今後どのような人材を増やしていくべきかを考える上で、とても参考になりました。
このような思いで一緒に働ける方がいらっしゃれば、ぜひ一緒に仕事をしていきたいですし、我々も今後いろんな会社さんを参考にしながら、組織も事業も拡大していきたいと改めて思えた、非常に有意義な時間でした。
高松:ありがとうございました。工藤さん、お願いします。
工藤:私自身も今日お話しさせていただいて、「テックリードとは何か」ということを言語化する良い機会になりました。やはりこうやって意見交換や情報交換をしながら、どうあるべきかを話し合い、考え続けていくことがとても大切だと改めて実感しました。
高松:佐藤さん、工藤さん、本日はありがとうございました。 では、お時間になりましたので、今日はこれで終了とさせていただきます。お二人、ご登壇いただきまして、ありがとうございました。
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