「医師や看護師に恩返しを」。創業期からエクサウィザーズを支えたエンジニアの紆余曲折
「高校時代からぼんやりと、社会課題の解決に興味がありました。情報環境学研究科を専攻したのは、『もはや人ごとではない環境問題を、興味のある情報システムで解決したい』と思ったからです」
「エクサウィザーズ」で活躍する“ウィザーズたち”を紹介するストーリー。今回紹介するのは、エンジニアとして数理最適化の案件を手がける今中さんです。
「お世話になった医師や看護師を助ける仕事がしたい」そんな思いで、京都大学大学院で医療情報学を学び、前身のエクサインテリジェンス(エクサウィザーズは、エクサインテリジェンスとデジタルセンセーションのベンチャー2社が合併して誕生)から当社を支えてきました。エクサウィザーズの歴史と共に成長してきた彼のインタビューから、当社のカルチャーに迫ります。
高校時代から持っていた「社会課題を解決したい」という思い
エンジニアリング好きが高じて、趣味の卓球においても自分でサーブ戦略を考えるAIシステムを開発してしまうほどの今中さん。
(今中さんの持っているラケットたち。ほんの一部だそうです)
彼が情報処理に興味を持ったのは高校時代。パソコンを触ったのをきっかけに、大学は情報環境学研究科に進学。空の写真から雲の割合を分類し、エアロゾルと呼ばれる大気中の成分が何パーセント雲に含まれているのか画像から判断する研究をはじめ、環境問題を情報で解決する研究に没頭した。
「高校時代からぼんやりと、社会課題の解決に興味がありました。情報環境学研究科を専攻したのは、『もはや人ごとではない環境問題を、興味のある情報システムで解決したい』と思ったからです」
情報環境学研究科を卒業した彼は、コンピューターサイエンスの知識を活かすべくIT業界への就職を目指す。いくつか内定をもらった中で、最も挑戦しがいがあると感じた日本総合研究所へ入社。半年後、同社から分社化したJSOLに移籍し、給与計算ERPの開発・導入支援・保守に従事した。
JSOLで4年間にわたりエンジニアとして経験を積み、責任ある仕事も任されるようになるが、体調を崩してしまい、退職することとなる。療養を経て、次のステップとして選んだのは大学院の進学だった。
(京都在住のため、リモート取材を行いました)
「入院中に、医療現場の課題が気になっていたんです。お世話になった医師や看護師の方に恩返しができたら、という思いもあり、改めてそうした分野を勉強してみようと思い、京都大学大学院の医学情報研究科に進学しました。そこでは、病院の機械や仕組みを情報システムで改善する研究をしていて、自分の興味範囲に合っているなと思ったんです」
進学後、研究テーマを探すために、介護現場を訪問しヒアリングを重ねるも、当初はなかなかテーマを見つけるに至らなかった。そんな折、京都大学医学部附属病院から「病院のデータを使って何かできないか」と依頼を受ける。
「勤務表のデータが沢山あることに着目して、過去の勤務表のデータを学習し、最適な勤務表を作ることを研究テーマとして取り組みました。結果として、看護師長がコンピューターにより作成された勤務表を修正する時間が、従来技術を用いたものより45分短くなったという成果を出すことが出来ました」
六畳一間で川の字をつくって寝ていた創業時代
大学院では新たな出会いもあった。同研究室でエクサインテリジェンス共同創業者の古屋俊和さんに出会ったのだ。
「ある日、古屋さんが研究室で一人の知らない男性と面会していたんですよ。実はその人こそが、エクサウィザーズ共同創業者で現取締役会長の春田さんでした。古屋さんは春田さんと会社設立に向けた打ち合わせをしていたんです。そこで古屋さんから『AIで社会課題を解決する会社をつくるけど、一緒にやるか?』と突然誘われまして。
就職先も決まっていなかったし、医療現場を変えたいという思いもあったので、会社のコンセプトにはすごく共感できたので、入社を決めました」
こうして2016年2月に立ち上がったエクサインテリジェンスは、早々に大型プロジェクトを受注し、メンバーたちは東京へ向かう。しかし、設立間もないスタートアップの限られた資金では、一人ひとりに部屋を用意することはできなかった。そこで彼らは、一つの部屋をシェアする共同生活で創業期を乗り切ったと言う。
「僕は古屋さんとアルバイトのスタッフと同じ部屋で生活していたのですが、あの頃は印象深いですね。とにかく部屋が狭くて、六畳一間に3人で川の字をつくって寝ていました。布団の枚数も足りないし、古屋さんのいびきはうるさいし(笑)。まぁ、創業期しか味わえない経験ですし、振り返ればいい思い出です」
創業期の紆余曲折を経て、エクサインテリジェンスは2017年10月にデジタルセンセーションと合併。エクサウィザーズに社名を変え、社員は230名規模(2020年11月時点)の組織に拡大した。
自由と挑戦の文化の中、数理最適化による社会課題解決を目指す
創業から4年間で担当したプロジェクトは約15個。ドメインも多岐にわたった。関われる範囲の広さに加え、自ら事業を提案することもあった。
「少し前にあるプロジェクトで誰に指示されることもなく、『コロナ対策』として免疫力をアップさせる料理レシピをレコメンドする機能を開発して、経営会議で発表したことがありました。
普通なら『勝手なことするんじゃない』と言われそうですが、経営陣からは『もっとこうした方がいいかもね』と丁寧にフィードバックしていただきました。それくらい、うちは挑戦に対して寛容な社風だと思います」
一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮できる文化に加え、「チームでコミュニケーションを図りやすい文化もプロジェクトの進めやすさにつながっている」と今中は言う。
「うちのビジネスサイドはコンサル出身でシステム開発の要件定義ができる人も多いので、コミュニケーションが取りやすい。社内にはあらゆる分野の専門家もいるので、わからないことがあっても、誰かに聞けば大抵のことは解決します」
彼が目指すのは、数理最適化を活かしたプロダクト開発だ。数理最適化は機械学習に引けをとらない技術。機械学習で予測した結果を活かす際に有効なことも多く、身近な例で言えば、アルバイトのシフト作成などで使われている。
「最近、アルゴリズムの発展や計算機のパワー増加で、より難易度の高い計算ができるようになってきました。機械学習と数理最適化の両輪があって初めて一つのソリューションが生まれるケースもあります。
今後も、数理最適化を用いて、現実の様々な問題を解決していきたいですね」
文:田尻 亨太 編集/写真:稲生雅裕