「数学は役に立たない」は思い込み。学問の力で社会課題を解決する機械学習エンジニアの挑戦
「大学で数学の研究をしていても、『世の中の役に立たないのでは』と考えている人はいると思います。でも、エクサウィザーズでは、大学で勉強してきたことがストレートに役立つ場面が多々あります」
「エクサウィザーズ」で活躍する”ウィザーズたち”を紹介するストーリー。
今回は、京都大学卒業後、ノーベル賞受賞者を12人輩出しているドイツのキール大学で数学を学んだ後、エクサウィザーズに入社した石丸さんです。現在は機械学習エンジニアとして、企業とのイノベーション案件や自社プロダクト開発に携わっています。
石丸さんが専門としているのは、数学の「最適化」。専門知識をどのように社会課題解決に活用できるのか伺いました。
「最適化」の面白さは、概念上の研究に止まらないこと
ー石丸さんは大学卒業後、メディアアートを学ぶためにドイツへ留学されていますよね。どんな理由があったのでしょうか。
京都大学卒業後も数学を専門に研究していくつもりだったのですが、当時コンピューターのアルゴリズムを用いたアート表現が注目を浴びていた頃で、自分もやってみたいなと思ったんです。現代音楽と映像のコラボレーションに関心があって、それを学びたいなと。
ーその後、ドイツの別の大学院で今度は数学の研究をされていますよね。
留学中に体調を崩して、帰国せざるをえなくなってしまったんです。改めて、自分が何を学びたいかを考えたときに、ずっと好きだった数学にもう一度向き合ってみようと思い、ドイツのキール大学修士課程に進学しました。
ー数学の「最適化」を専門としているそうですが、どのようなことを研究する学問なのですか?
さまざまな条件がある中で選択肢を組み合わせて成果を出そうとするときに、その成果を最大または最大にする手法を導き出すのが「最適化」です。例えば、Googleマップに経路検索の機能ってありますよね。地図情報をもとに出発地から目的地までの最短経路を見つけ出すのは、最適化の基本的な問題です。
数学の研究は、概念上の話にとどまる分野も多いのですが、最適化は現実の世界の課題にも応用できる部分が多く、そこに面白さを感じていました。
ーキール大学の卒業後、エンジニアの道に進んだのはなぜですか?
最適化がコンピューターサイエンスの一分野でもあったことに加えて、情報系の教員をしていた父親の影響も大きいです。子どもの頃から家にはパソコンがあり、自分は小学生のときからプログラミングをしていたので、エンジニアの仕事には馴染みがありました。
ーどのような経緯でエクサウィザーズに入社したのでしょうか。
エンジニアを募集している企業は数多くありましたが、最適化の専門知識を持った人材を求める企業はかなり限られていました。そんな折に思い出したのが、大学院生時代に参加した競技プログラミングコンテストを主宰していた、エクサウィザーズでした。調べてみると、エクサウィザーズはそうした人材をピンポイントで募集していたんです。
エクサウィザーズはAIを用いて社会課題を解決していく会社ですが、お客さんの課題の中にはAIよりも別の手法を使った方が適切な場合もあります。最適化の手法は、まさにその一つ。自分が面接を受けた当時は、最適化に詳しい人材がまだ一人しかいなかったため、その分野の知識を持つ人材にニーズがあったのでしょう。自分の経験を活かし、企業や社会に貢献できるのならと思い入社を決めました。
最適化のノウハウを活かし、難易度の高いプロジェクトに挑戦
ー石丸さんの現在のポジションと仕事内容を教えてください。
機械学習エンジニアとして、コンサルタントのメンバーとクライアント案件に取り組んだり、自社プロダクトの開発に携わったりしています。機械学習を手段として使うこともありますが、自分はもっぱら最適化の手法を活用した開発をしています。
主な仕事は、社内異動や人材配置を最適化するサービス「HR君 haichi」の開発などです。「HR君 haichi」は、大企業の人事担当者が何ヶ月もかけて取り組んでいる業務を効率化し負担を減らすだけでなく、社員を最大限活かした組織づくりのサポートをします。
ー最適化のノウハウをプロダクト開発に活用できているんですね。
はい。ただ、HR分野の開発はかなり難易度が高いですね。今まで人がやってきた知的業務を機械で代替する場合、当然ですが人が見て不自然でない結果を出さなくてはなりません。
例えば、人と同等の作業ができる状態を100点とすると、「人がやらないミスをしたらマイナス10点」というように、開発したシステムに対して減点法の評価をしながら改善を進めていきます。これを100点の水準にする、つまり人と同等のレベルに持っていくのは、非常に難しい。
一方、加点法の評価になるプロジェクトもあります。それは、人がやる以上の成果を最初から目指す場合。例えば、エネルギー事業における効率を高めるプロジェクトでは、「何パーセントが改善した」と数値が出るので、良い数値が出るようひたすらチューニングを繰り返します。
ーゴールをどこに設定するのかによって、開発の進め方が異なるのですね。石丸さんは実務に携わるのはエクサウィザーズが初めてだと思いますが、大学での研究活動との違いは感じますか?
実務の場合はお客様がいますから、開発を進めるなかで取るべき手段を変えることもあります。その内容によっては、開発をイチから改めることもあるので、常に条件変更に対応できる手法を選択するように心掛けています。
手法にとらわれず、数学の力で、現代の課題を解いていく
ーこれまで働いてきて石丸さんが感じる、エクサウィザーズの特徴は何でしょうか。
社員のバックグラウンドが多様なことです。エンジニアばかりというわけではなく、いろんな職種の人がいる。国籍も多様で、常に刺激を受けられる環境だと思います。
それから、エンジニアの自主性を尊重する社風も特徴だと思います。スケジュールはある程度一人ひとりが動きやすくなるように配慮して設定されるので、担当する複数のプロジェクトを裁量を持って進められます。
ー職歴にかかわらず、自立したエンジニアとして扱われるのですね。では、エクサウィザーズのMLエンジニアとして働く魅力は何だと思いますか?
一つは、「社会のためになる仕事をしている」とわかりやすく感じられる点ですね。エネルギー事業のプロジェクトなら、エネルギー効率の改善に直結しますし、シフト作成の自動化や「HR君 haichi」のプロジェクトでは、HR領域で働く人の負担削減になる。その実感は何よりモチベーションにつながります。このようなプロジェクトの相談が絶えずさまざまなお客様から寄せられるので、やりがいは大きいですね。
もう一つの魅力は、専門知識を実務に生かせる点です。いま数学を研究している人の中には、「数学を研究しても、世の中の役に立たないんじゃないか」と考える人もいると思うんです。でも、今回ご紹介したように、エクサウィザーズでは大学で勉強してきたことがストレートに役立つ場面が多々ありました。
ー大学などで専門知識をしっかりと身につけてきた人は、入社後大いに活躍できそうですね。
はい。その一方で、課題ドリブンで手法にこだわらない柔軟さを持つことも大切です。エクサウィザーズでは、常に最新の手法を取り入れるわけではなく、目的に照らして最適だと思われる場合は、古いやり方を選択するケースもあります。それが最適な場合は、大学の教科書に載っているような何十年も前から存在する手法を使うこともあります。
新旧含めたさまざまな手法を用いて、現代の課題をいかに解決していくか。そこにやりがいを見出せる人が合っていると思います。
ー技術や知識そのものよりも、「技術や知識を使って社会をどう改善できるか」に関心を持てる人が向いていそうですね。最後に、石丸さんが今後挑戦したいことを教えてください。
「社会をより良くできた」と実感できるプロジェクトを、一つでも多く成功させたいですね。効率化・機械化という言葉に対して不安を覚える方もいると思いますが、そうした不安を払拭できるくらい「社会にとって良いことをしているんだ」と自分も信じられるし、周りの人にも信じてもらえるようにしたいです。
先ほどお話ししたように、最適化のプロジェクトには、減点法で評価されるために成果がわかりにくいものもありますが、だからといって避けたくはないなと。減点法と加点法、どちらで評価されるのプロジェクトにも挑戦して、さまざまな社会課題解決に貢献していきたいと思います。
文:一本麻衣 編集 / 写真:稲生雅裕
(写真は昨年撮影したものです)