ソーシャルイノベーションを起こしたいデザイナー
はじめまして稲葉です。エクサウィザーズへ入社して1年ちょっと経ちました。現在は歩行分析AIサービスの「トルト」のデザイナーとして何でもやっています。
大学・大学院時代からUXデザイン関連のことを学び、特にユーザー調査からの発想に興味を持っていました。今回は「トルト」に関係なく、ソーシャルデザインとその事例について紹介したいと思います。
ソーシャルデザインとは
ソーシャルデザインとは何か、皆さんはご存知でしょうか?ググってみると大体、より良い社会を作るためにデザインを活用して、育児や教育、福祉、災害など私たちの生活に関わるさまざまな課題を解決することだという主旨になるかと思います。
ヴィクター・パパネックは『生きのびるためのデザイン』で、デザイナーの責任の範囲は、自身がデザインした製品が市場に受け入れられるかどうかだけではなく「公共の利益に役立つものであるかどうか」だと述べています。
私はこれこそソーシャルデザインに関わる上で大事な視点だと思っています。そして、経済的・文化的なエリートが享受する贅沢品となっているデザインを高齢者や障がい者、開発途上国など、社会的なハンディキャップを抱えた人々のために、デザイン活動を進め必要なデザイン計画を立てるように言っています。(個人の感想)
また、カーネギーメロン大学のデザイン学部が提唱しているデザインのアプローチでは、ソーシャルイノベーションのためのデザインは以下のように記載されています。
つまりソーシャルデザインとは、対象が幅広く、
など、様々な角度から関わることができそうだということが分かります。
何でもあり感が素敵ですね。
ここまでの話を踏まえると、ソーシャルデザインとは以下のように言えるかと思います。
多様な社会が求められる現在、ライフステージ(人生)の終わりに向けても新しい流れが起きています。
故人との最後の時間を演出し対話する
事例01:「自力葬」
「自力葬」とは、株式会社カヤックの子会社、株式会社 鎌倉自宅葬儀社が提供しているオンラインサービスです。葬儀社主導ではない自分たちだけでつくる葬儀「自力葬」を支援するためのサービスです。
「自力葬」をオンライン上で支援し、家族に合った送り方をお手伝いしています。事前に葬儀の知識をつけることで、万が一の時に向けての心の準備や、危篤状態から葬儀後までの一連の流れから、火葬場の予約までオンラインで支援しています。
超高齢社会から多死社会へ向かい、人々の多様性が叫ばれている中で、葬儀については、『とりあえず自分の親から続いている宗派でお葬式をあげる』という方が殆どだと思います。遺族が自由に自分たちだけで別れを演出し、宗教にとらわれることなく故人らしさを追求して葬儀を執り行うことができるようになると多様な世の中へと一歩前進するのではないでしょうか。
また、このようなサービスが生まれた背景には価値観の多様化だけでなくお金に関する切実な理由もありそうです。こちらの【終活に関する意識調査】では、47.3%の人が終末の必要資金が足りるか不安と回答しています。
何れにしても、残された遺族が、故人との最後の時間を自分で選択し、演出できることは故人との対話であり、これから生活していく遺族が前を向くことに大きく貢献することだと思います。人の幸福と生活の向上に寄与し、葬儀の仕組みをデザインしているこのサービスはソーシャルデザインと言っていいのではないでしょうか。
人生の終わりをどのようにおくるか、またはおくりたいか「終活」という言葉が出来たため、以前より話しやすくなったかと思います。しかし、死はセンシティブな話題のためまだまだ話づらい状況は変わっていません。
この領域にも様々なサービスが出始めているため、今後終活を通して人生を見つめ直したり、どのように終わりを迎えたいか話せるようになるかもしれないですね。
遺言書.com
遺言書自動作成アプリ「らくつぐ」
死後の行政手続きに係わるデジタル化構想
地域との関わり合いから解決策を模索する
一方で、終わり方をデザインしても人口減少による影響は回避できないため、どのように対応していくかも考える必要があります。
「自助・共助・公助・互助」市民が加わるソーシャル・イノベーション
日本では、1990年から国会で「自助・共助・公助」という言葉が出はじめ、2011年の3.11の震災を機に政府が「新しい公共」宣言を提示しました。
簡単に内容を説明すると、多様化する社会では、政府だけでは財政的にも人員的にも地方のニーズに答えることはできないため、政府・行政・市民がそれぞれ互いに支え合って社会課題に対処していきましょう、みたいな感じです。詳しくは引用先をご確認ください。
このような流れの中で、社会課題に取り組むには「国」「地方自治体」だけでなく私たち一人ひとりの関わりが重要になってきました。そこで次はソーシャルの担い手として個人がどのように関われるのか事例を紹介します。
事例02:北長瀬コミュニティフリッジ
これは「困ったときはお互いさま」の助け合いの精神で個人、企業が、食料品・日用品を購入、もしくは現物を北長瀬駅前の「ブランチ岡山北長瀬」の駐車場に併設された倉庫内の冷蔵庫や冷凍庫に持ち込み、提供を希望する方は24時間、ご都合の良い時に取りに来くることができる仕組みです。提供を希望する方は時間や人目を気にせず利用することが可能です。
実際に私も「ネット支援」で食料品を支援したのですが、あまりに簡単にできて感動しました。普段からAmazonを利用しているというのもありますが、Amazonのアカウントにログインし、欲しいものリストに入っている物を購入するだけで支援が完了します。情報技術を活用して地域外からも支援が届く仕組みが形成されています。
北長瀬コミュニティフリッジのサイトから支援を求めている登録者の声や活動タイムライン、支援側の応援メッセージも確認することができるため、一方的なやりとりという感じは無く、活動にも透明性が担保されてすごく良いと思いました。また、この活動が1箇所ではなく現在は全国5つの場所に展開されているのが素晴らしいと思いました。ノウハウはオープンになっており支援者として、コミュニティフリッジの運営者としても参加することが可能です。
米国ナイト財団の2013年の資料では、シビックテックの範囲を以下の5分野に大別しています。
コミュニティフリッジの事例は、02、03に関わり、05の形成にも役立てることが可能だと思います。
事例03:地域包括ケアシステム
団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組みのことです。
地域生活は専門職だけで支えるわけではないという考えのもと「自助・互助・共助・公助」それぞれの関係者の参加によって形成されます。
この行政の関わり方や考え方を、どこかで聞いたことがありませんか?
そうです!デザインの役割の変遷ととても似ています。専修大学の上平崇仁教授のブログの中にデザイン態度論として紹介されています。そっくりですね!
クラフト的なデザインから協動のデザイン、当事者デザインへと続くデザイン活動のなかで自分が作ったもの、関わったものは”公共の利益に役立つものであるか”この視点はソーシャルイノベーションを起こしたいデザイナーにとって必須の問いかけになるでしょう。
これから社会課題に関わるデザイナー
このように社会課題を解決しようとすると、少なからず地域づくりもしくは社会の仕組みを考えていく必要があります。
また社会課題とは、市場メカニズムによる外部不経済や資源配分が不適切or不十分なため起こる問題であり、市場の失敗だと思っています。そのため私たちは「AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実現する」をMissionに掲げてあえて挑戦しています。
サービス化するための難易度はとても高く、難易度が高いためまだまだ多くの人の力が必要です。ソーシャルイノベーションを一緒に起こしたいデザイナーを募集していますので、応募よろしくお願いします!