異職種からPdMへ転じた、 若手メンバーのキャリア戦略。 イベントレポート
世界的に需要の増えているPdM(Product Manager)。最近では、キャリアステップの一つとしてPdMを目指している方も多いのではないでしょうか。
10月5日、デザイナーやカスタマーサクセスからPdMにキャリアチェンジした3名が集まり、「異職種からPdMへ転じた、若手メンバーのキャリア戦略」について語りました。これまでの経験をどのように活かしながらPdMとして成長していったのかー
この記事では、同日のイベントレポートをお届けします。
PdMに求められる優先順位付けの難しさ
稲生:皆さん、今日はよろしくお願いします。
今回は「PdMとしての成長」「AIプロダクト」をテーマに6個の質問を用意しました。まず1つ目、未経験からPdMへスキルアップするためにどんなことをされてきたのか、阿部さんから聞いてみたいと思います。
阿部:スキルアップを意識して行ったことではないですが、私がカスタマーサクセスからプロダクトマネージャーになったのは、プロダクト初期段階においては両者の役割がほぼ同じだと思ったからです。これまでカスタマーサクセスとして1対1で提供していた価値を、機能としてプロダクトに実装することで1対Nの価値も提供できるようにもなれる、と思えたのがモチベーションでした。
ただ、プロダクトにお客さんが求める価値を全て実装することはできないので、プロダクトマネージャーのコア業務の一つである、開発の優先順位をつける業務自体やその観点は業務の中で学んだことも多かったです。
稲生:最初は優先順位をつけることが難しいと思うのですが、確度を高めるために行っていることや、意識していることはありますか?
阿部:まさに、始めは目の前にあるタスクに忙殺され、優先順位というよりも、緊急度の高いものから対応するという状況でした。
そんなとき、鈴木さんがチームに加わり、やりたかったけど出来てなかったことに手を付けられるようになりました。例えば、プロダクトが今いるフェーズや今後のステップの確認と再定義、カスタマージャーニーやリーンキャンバスの見直し、カスタマーがサクセスするために必要な支援・機能の検討などなど。そして、それらを元にOKRや開発ロードマップを作成したので、Objective/KeyResultに対しての寄与度と緊急度で優先順位を判断できるようになりました。
稲生:OKRに基づいて優先順位を決めるのも難しそうですが、どうやって判断するんですか?
鈴木:ここで大事なのは、OKRそのものよりもそこに至る議論だと思っています。私もはじめからできていたわけではなく、前に取り組んでいたFintechのプロダクトでは、目の前のリリースや改善にフォーカスしすぎて全体の優先順位が曖昧なまま進んでしまっていました。その反省を踏まえて、OKRの前段となるリーンキャンパスやカスタマージャーニーの作成にしっかり時間をとりました。
そこでは私たちのお客さまが抱えている課題・提供すべき価値・最終的に到達してもらいたい状態・お客さまの成功を妨げる障壁・それを払拭するための必要機能やUXと、全員が腹落ちするまで徹底的に議論しました。そこまでやれば、ある程度機械的にOKRに落とし、優先順位をつけることができました。
体験をデザインするため、ドメイン知識は欠かせない
稲生:今のお話を聞くと、なりたい状況が何で、それに対してユーザーにどんな行動をとって欲しいかは、どう体験をデザインしていくのかを考える「UXデザイナー」的発想にも近いようにも感じます。
ここは鈴木さんにお聞きしたいのですが、実際にUXデザイナーだったから活きたスキル、逆にスキルアップが必要だなと感じているのはどんな点ですか。
鈴木:体験デザインがPdMに活きるのは、本当にその通りです。UXコンサルティングで行っていた、「製品・サービスを使う人はどんな人で、その人の根底にある想いや置かれている状況は何で、どうしたらこの製品・サービスを通して幸せになれるか」をリサーチし設計するスキルは、今もとても役立っています。
一方で、スキルアップが必要だと思うところはたくさんありますが、一つはフロントエンドや、機械学習の知識。ここは、今もチームの皆さんに教えてもらいながら、知識をキャッチアップしてなんとかやっている状況ですね。
稲生:エクサウィザーズは対応領域も広く、担当するドメイン知識と技術面の知識の両方が必要ですが、皆さんはどのようにキャッチアップしてますか?
柿嶋:これはエクサウィザーズの強みでもあるかもしれませんが、私のチームには元々、介護現場で働かれていたドメインエキスパートがいらっしゃいます。私の場合は、入社後、毎週のようにその方と一緒に介護スタッフさんに対して、開発中のプロダクトのUXリサーチを行う中で、介護現場において分からないことを一つずつ学んでいった感じです。
ただ、ドメインエキスパートがいる環境は当たり前ではないと思うので、大切なのは「領域への興味関心」でしょうか。まずは自分自身が、たとえ原体験などがなくとも、その領域の社会課題に対して、興味関心を抱けることもスキルの一つだと思っています。その上でUXリサーチをすると、おのずとその課題に対して、もしくはユーザーの行動原理について関心が高まり、本気で働き方を変えていきたいという想いも確かなものになっていった気がします。そうなると、雪だるま式に、現場の情報が収集できるようになっていくと思います。
チーム力だけでは前進できないこともある。時には全社を巻き込む行動を
稲生:ここからは、プロダクトを前に進めるための行動について聞いていきたいと思います。
PdMは「巻き込み力」を求められることが多いと思うのですが、メンバーを巻き込むうえで大事にしていることや気をつけていること。プロダクト開発の中で、壁にぶつかったことなどがあれば教えてください。
阿部:私がプロダクトマネジャーをやっていたときは、3名のメンバーだったので、チームメンバーを巻き込む/巻き込まないという状況ではなかったのですが、、、
どちらかというと自分に足りなかったと思うのは、会社全体を巻き込む行動ですね。事業成長に必要なリソースの働きかけをエスカレーションできなかったなと。プロダクトの目指す方向、今いる立ち位置、そのギャップを埋めるための行動など、自分の持っているチームの範囲だけで解決しようとして悶々としていました。
稲生:確かに、自分たちのリソースでやらねばと思い込んでいると、会社を巻き込む発想はなかなか出てこないかもしれないですね。
他のお二人はどうですか。
鈴木:私もまさに経験したことですが、日々、目の前のことを行う中で、メンバーそれぞれが見ている世界が少しずつズレたり、分からなくなることはよくありますよね。「今私たちのプロダクトはここにいて、次はここを目指すんだよね」と共通認識を持つ機会は意識して作るようにしています。
また、前のチームはコロナ禍で入社した人が多かったので、週に1回、雑談タイムを設けてお互いを知るための工夫をしていました。巻き込みとは少し違いますが、チーム力を高めるのに役だったと思います。
稲生:監督ではないですが、チームをまとめることもPdMに求められる要素ですね。柿嶋さんの「CareWiz 話すと記録」チームでも、みんなで意見を出し合う時間を作ってますよね?
柿嶋:そうですね。Lean Coffee(アジェンダも議事録も無い会議)の形式で朝会と夕会を毎日行っています。そこでは、みんなアウトカム達成に必要な会話だけでなく、意識的に雑談などの話をするようにしており、チーム作りにおいては、そのバランスの取れた時間が習慣化していることが、とても重要になっていると思います。
スペシャリストの力を最大限活かすため、対等に会話できる技術知識はPdMの必要スキル
稲生:これまでのお話の中で、PdMは監督であり、スキルを持ったスペシャリストを集め、その人たちが能力を発揮できる環境を作るのことも役割の一つだとありました。
スペシャリストたちに活躍してもらうために、PdM側が必要なスキルって何かありますか?
鈴木:そうですね。その人たちの話を理解できる知識は必要だと思います。PdMはデザインをするわけでも、コードを書くわけでもありません。チームのスペシャリストたちが最大限、自分の持つ力を発揮できるように任せること。その際、守るべきことや期待することなどをきちんと会話できるよう、対等に話せるだけの知識インプットは必要ですね。
稲生:鈴木さんは、どのように勉強とかインプットしました?
鈴木:分からないので教えてください、の連続ですよね。本を読んだり勉強会に出たりもしましたが、説明してくれる言葉、判断に必要な観点など、その都度聞いて、皆さんに教わった部分が大きいです。
阿部:私の場合は、SIer出身のため多少システム的な知見はありましたが、実装やAIは同じく「分かりません」という状況でした。でも、エクサウィザーズのエンジニアはビジネスレイヤーまで下りてきてくれるというか、同じ目線で、翻訳しながら会話してくれるエンジニアが多く、とても助けられています。
分からないことは分かったふりをするのではなく、正直に分からないと伝えて、ちゃんと教えてもらう。もちろん単語などは自分で調べていって、だんだん会話ができるようになっていく姿勢が大事だと思います。
AIの精度と顧客の反応を複合的に見る大変さこそ、AIプロダクトの面白さ
稲生:では最後に、技術面でのスキルアップに関連して、AIが核となるプロダクトだからこその難しさや、意識していることを聞きたいと思います。
柿嶋:私はAIが絡むプロダクトしか経験したことがないので、AIが絡まないプロダクトと比較することはできないのですが、アジャイル開発において開発スピードを一定に保ちながら、一筋縄ではいかないAIの精度改善を行い続けることが、とても難しいな、と感じています。
例えば、日々のユーザー調査の結果から次に必要となるUI/UXに関する機能改善はある程度見えたとしても、その実現にはAIや音声認識の精度が一定数絡んできます。AIの精度改善は生き物を扱っているような感じで、UI/UXの改善のようにスムーズにいかないことも多いです。たとえリリースしても、AI精度が改善するか不確実な中で改善とリリースを繰り返し、かつユーザーの満足度を高め続けることはすごく難しいなと思ってます。
もう一つ、AI×UX(デザイン)の話をすると、ユーザーのAIに対するデジタルリテラシーや期待値調整も意識しないといけない点ですね。「CareWiz 話すと記録」は介護施設で使っていただくアプリのため、ユーザーとなる介護スタッフさんの年齢もかなり幅があります。そのため、介護スタッフの方がプライドをもって行なっている介護の現場に、いきなりAIです、音声認識ですと言うと抵抗感を抱く方もいらっしゃれば、逆にAIに100%の正解を期待してしまう方もいらっしゃいます。
そこで、あえてUXの中に、AIが記録を作ってくれるけれど、最後に記録を確定してもらう時には、人間であるあなたが確認してから「確定ボタン」を押すというステップを挟んでいます。もちろんAIが作った記録をそのまま自動送信することもできますが、最後は人間が意思決定していると感じてもらえるAI×UXを考えることは大事にしています。
稲生:これは介護現場だけじゃなく、大切な視点ですね。自分の仕事がAIに奪われるとか、AIがなんでもやってくれるという誤解は、技術が進化したこの先もっと増えるようにも感じます。
コミュニケーションで解決できることも多いと思いますが、鈴木さん、阿部さんはどう思いますか。
鈴木:同じような誤解はあります。私たちのプロダクトは、機械学習を使って企業のデータ活用を簡単にするというもので、ビジネス現場の方にAIや機械学習に対して適切な期待を持ってもらうことが大切です。AIに対してアレルギーや嫌悪感を持つ方が多いのかと思いきや、逆になんでもできると思われることも多くあります
誤解を与えないよう、用語解説を行ったり、各社でセミナーを行ったり、地道に丁寧に説明していく活動が必要なのかな、と思ってます。
稲生:みなさん、今日は様々な質問にお答えいただき、ありがとうございました。各分野のスペシャリストの力を集結させた最強チームを作り、プロダクトを前に進めていくPdMは、様々なキャリアでの経験や強みを生かして挑戦できる職種だと感じていただけたのではないでしょうか。