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エクサウィザーズ誕生までのアナザーストーリー。プログラミングとケアの二刀流取締役 坂根裕の軌跡(後編)

この記事は、エクサウィザーズアドベントカレンダー25日目の記事です。

難解な社会課題に立ち向かうために、僕は石山さんに武器を持たせたい

ふとした出会いをきっかけに、エクサウィザーズの前身であるデジタルセンセーションの社長となり、専門職以外では世界初となる「ユマニチュード」*認定インストラクターにもなった坂根さん。プログラミングとケアの二刀流としての日々もまた目まぐるしいものだった。(前編はこちら

ユマニチュードの研修事業をうまく伸ばせない

日本でのユマニチュード研修は、現場実習の代わりとして、研修生が所属する現場でケアをしているところを撮影した動画を持参していただき、それを利用した指導を行っていました。

通常自分がやっていることって言語化しないじゃないですか。だからケアしている本人は、自分がやっていることを上手く説明できないんですよ。「あ、拒否されて失敗しました。以上です」みたいな。

でも、インストラクターは違うんですね。そのケアをしている動画を見ながらアノテーション(注釈)していくんです。

「ノックして入室した時点では、目線が合っていますね」
「あなたが車椅子を取りに出て行くまでずっと目で追っていたのに、今、5秒ほど目線が下がりましたね」
「はい。ここです。ここで関係性が切れてしまったので、あなたは手を振り払われました。どうしたら良かったですか?」
といった感じで、逐一画面を指差しながら丁寧にアノテーションされると、これまで意識しなかった現場から、より詳細な情報を得ることができるようになるんです。

その結果として、その方のケアの質が変わっていくという場面をいくつも見てきました。

ケアを撮影して研修で自分の行動を振り返る、その一連の流れがすごく良くて。ちなみに、これをサポートしたいと思って考えたのが「ケアコチ(現 CareWiz トルト)」なんです。

自分自身もインストラクターになって、ユマニチュードの研修事業を立ち上げたわけですが、当初の計画通りは進みませんでした。研修の需要はあり、すぐ完売という状況だったのですが、社内体制が十分でないために、期待する成果まではなかなか出せない。この状況を打破するには得意のITを使うしかないかなと。

そこで、動画を使ったコーチングとユマニチュード指導の相性が良いことはわかっていたので、ITを活用して研修を加速させようと考えました。

そしてその開発のために、再度投資を受けようと投資家探しを始めたんです。すごく時間をかけて補助金申請もして、もう一歩というところまで残ったこともありましたが、結果ダメで。もう打ち手がない、という状況にまで追い込まれてしまいました。

これからどうしようと考えている中で、ふと気づいてしまったんですよね。

ユマニチュードがすごい勢いで伸びようとしている中、自分たちが足かせになっているのではないかって。だから、ユマニチュード創始者のジネスト先生に、今の自分たちの状況を説明しました。

「ユマニチュードがあって会社は助かっているけれど、このまま僕たちと付き合っているとユマニチュードはいずれ頭打ちになる」と。そうしたら、「お前は何が言いたいんだ?」って言われたので、「ユマニチュードを伸ばすために僕たちを切れ。その方が上手くいく」と言いました。

お酒の席だったのですが、それを聞いたジネスト先生の顔色が急に変わって。それまで酔っ払ってヘラヘラされていたのに(失礼)、真顔でこう言われたんです。

「よく聞け、俺はお前と仕事しているんだ。金儲けのためにやっているわけじゃない、こんなしょうもないこと二度と言わないでくれ」と。

背水の陣で、石山さんと出会う

よし、もう一度頑張るかと思い再度資金調達先を探し始めたある日、元エクサウィザーズ取締役の竹林さんに、目的も伝えられずに突然リクルートに呼び出されたんです。

そこにいたのが、当時リクルートでAI研究所の所長をしていた石山さんでした。

石山さんにユマニチュードについて話したら、もともと興味があったようで「何か一緒にやりたい、私たちに何かできることはありますか?」と聞いてくれたので、「投資してください」って言ってみたんです。

そうしたら、2日後くらいに「動かしますからよろしく」って電話がかかってきた。それは結果的には上手くいかなかったんですけど、その後、福岡で行なっていたユマニチュードの研修に石山さんが見学に来てくれるなど、関係性は続いてました。

その後くらいかな。石山さんからリクルートを辞める話とともに、「投資を動かしきれなかったから、個人的にお金を入れたい」というようなことを言われたんです。

喜んでいたら、元監査役の池永さんが突然「お金じゃなくて、石山さんに来て欲しい」って言い出して。もちろん、石山さんには何十社とオファーが来ているわけです。そんな中「100%でうちに来て欲しい」と無茶なお願いをしたら、「わかりました」「ええっ?!」って(笑)。

さらに図々しいことに、資金調達という宿題まで出したんですよ。そうしたら、1週間後に「宿題終わりました」と。もう全て投資家と話しがまとめられていて、僕はほぼ挨拶するだけでした。

エクサインテリジェンスと合併 エクサウィザーズ誕生

資金確保ができて、じゃあ今から頑張るぞっていうときに、石山さんから「エクサインテリジェンスの春田さんという方が興味を持ってくれているんだけど」と、合併を提案されました。現エクサウィザーズ 会長の春田さんです。

そこから春田さんと会って、合併まであっという間でした。

石山さんが2017年2月末に資金調達をして投資家に挨拶し、6月に合併の話が出て、10月には春田さんのエクサインテリジェンスとデジタルセンセーションが合併。そうしてエクサウィザーズが誕生しました。

この激動の半年間のこと、いろいろありすぎて細かいことは全く覚えてないんですよね。

デジタルセンセーションとエクサインテリジェンスの合併前夜の決起集会にて

とにかく石山さんと会うたびに思ったのは、「やっぱりこの人はすごい」ということです。

僕はいろいろな人に、「お前は何を考えているのか、何を言っているのかわからない」って言われ続けてきたんです。頭の中で抽象度が高い事をずっと考えているんですけど、それを上手に言語化できない。言葉にした瞬間、いろんな要素が失われる感じがするんですよね。だから絵にするんです。

大学の教員時代には、周囲が理解できるようどう言語化するのかひたすら工夫してました。それが、石山さんだと一瞬で理解してくれるんです。

「ああ、こういうことですね」って。それがバッチリ合っていて、しかも想像を超えるフィードバックまでついてくる。すげぇ、こんな人に会ったことない、みたいな。

そんな石山さんの頭の中に興味があるのも、石山さんのことが大好きな理由のひとつです。

「こういう人と一緒に働きたい」と思っていたから、来てくれたときはめちゃくちゃ嬉しかった。だけど合併して石山さんが社長になり、忙しくなって前よりも話す機会が減ったのは残念に思っています。

僕のなかでは、石山さんと一緒にものをつくりたい、という思いが今でもあります。

エンジニアに戻りたい

合併してすぐ、石山さんに「こんなのが欲しいんだけど」と言われて作ったのが「アナリティクス」というプロダクトです。Excelデータを入力して、予測分析するというAIツールなんですが、初期バージョンは10日間で作ったんです。

その頃、僕はユマニチュードの研修でフランスへ行く予定だったのに、「すぐ必要です」って石山さんが言うのでジネスト先生に「行けない」って謝って。今インフラチームを率いてくれている瀬戸さんと一緒に、寝ずに開発しました。

実は、当時AIにはそれほど詳しいわけではなかったんです。だからまず本を読んで理解することから始めた、合併後初の仕事は衝撃でしたね。

その後しばらくは、ケア事業と技術側を行ったり来たりしていました。

ただ、ケアの世界にはその世界のルールがあって、なかなか人に任せられなくて。私自身が現場に入っていかないと解決できないことが多かった。気付けば、1年くらいまともにコードが書けませんでしたね。

だけど、前川智明さんが入ってきてくれて状況が変わりました。前川さんは、人の心を掴むのが上手なんです。相手に信頼感を与えられる、この人にならケア事業を任せても大丈夫だと確信したタイミングで、石山さんに「エンジニアに戻してください」とお願いしました。僕が会社に最も提供できる価値は、ものづくり(プログラミング)だと。

そこから1日16時間ペースでコードを書き続けました。「僕はこれだ!」と思いましたね。

自分の価値を改めて確認できたから、16時間でも20時間でも自分の時間を開発に使えるだけ使ってやると。ものをつくっているのは、全然苦痛じゃないんです。例えば、夜寝るときに「あ、あれはこう書いたらうまくいくかも」って頭に浮かんだら、起きて書きたくなっちゃうんです。

合併前はコードが書けなくても、社員たちのために「絶対に会社を潰すものか」と思ってやってきたから、辞めたいとか逃げ出したい気持ちには一度もならなかったけど、やっぱり開発に集中できる今の環境はありがたいですね。

石山さんが考えるフィクションをノンフィクションにする

最近考えているのは、AIを一過性のブームで終わらないために何をすべきかということです。

過去のAIブームが終わった主な理由は、「使えないから」なんだと思っています。今回も「AIは実験レベルでは面白いけれど、現場ではまだ使えない」ってまた終焉するんじゃないか心配で。

個人的には現場できちんと活きる技術があると思っているので、それを証明したいですね。

そして、何よりケアの実際の現場を知ったからこそ、技術で介護現場の人たちに役立ちたいと思っています。AIのコアな技術をプロダクトやサービスに入れて、ケアの現場に導入していくなど、何か形に残したい。

ケアの分野って、課題だらけなんだと感じています。だからケアの一助になるプロダクトやサービスがあると、そこにいるみんながハッピーになれると思っています。もの作りをしている人間からしたら、それが一番の喜びですよね。

そして、二の矢三の矢と続くような仕組みを作って誰もが使えるように、そこまでやりきりたいです。

ただ、現場に負担を強いて無理やりオンライン化するようなやり方では、長く続かないと思います。日常的に行っている業務の、どの部分をオンライン化させると誰もがハッピーになれるのか。それを正確に捉えないといけないですよね。いわゆるオンラインのデジタルの世界とオフラインの現場をどううまくデザインするのか、この答えを見つけたいですね。

これからやりたいことは、もう一つあって。石山さんが考える世界観に合った武器を持たせてあげたいんです。

石山さんは圧倒的に思考の幅が広いだけでなく、ストーリーを作る能力が半端なく高い。何が来ても、どんな分野にでもつなげてストーリーを作れるだけでなく、全員を納得させて引っ張っていく力があるんです。

でも、天才と評される人って、失敗するとほら吹きみたいに思われるところがあるじゃないですか。僕は石山さんを、そうしたくはない。

石山さんの考えるフィクションをいかにノンフィクションにするか。それはきっとすごく難しいけれど、自分だったらある程度かたちにできるんじゃないかと信じていて。

石山さんにいい武器を持たせたときに、どこまでいけるかを見てみたいんです。

しかもそれができる集団になれたら、僕らは多分、世の中で一番強くなれるんじゃないかな。まさにウィザーズ。

エクサウィザーズの仲間とだから目指せる世界を実現させたいです。

ケアのウィザーズたちと

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エクサウィザーズアドベントカレンダー2021は本記事で終了となります。「#これからのエクサウィザーズ」でお伝えしてきた社会課題の解決に興味をお持ちの方、ウィザーズとして第3の創業を一緒に始めましょう!

※「ユマニチュード」はフランスの二人の体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発したケア技法で、フランスのSASユマニチュード社の登録商標です。エクサウィザーズは、日本で唯一ユマニチュードの正規事業ライセンスを保有し、SASユマニチュード社認定を受けたインストラクターによる研修事業を展開しています。

(撮影時のみマスクを外しています。)

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