【イベントレポート】Web3時代のAI戦略〜実際のビジネスにBASICsをいかに生かすか〜
9月上旬、エクサウィザーズ取締役の大植が、日本経済新聞社が主催するDXイベント「超DXサミット」に登壇し、併設の全国の大学生が提案するビジネスプランを競い合う「全国大学ビジネスプランコンテスト(以下、大学ビジコン)」の決勝大会の審査員も務めました。
また、大植は今年8月に「Web3時代のAI戦略」と題した本も出版しています。“難しい“と思われがちな話題ではありますが、エクサウィザーズという会社がどのようにAIによる社会課題解決に取り組んでいるのか、「Web3時代のAI戦略」とはどのようなものかを少しでも身近に感じていただきたく、エクサウィザーズ広報部の佐藤がイベントレポートも兼ねて記事を書きました。
「みなさん、今日の講演をお聞きして興味があったら、下の階の書店で販売しているので、よかったら購入していただけたら幸いです」
大植が壇上で手にしていたのは、「Web3時代のAI戦略 社会課題解決を成長ビジネスに変える正のスパイラル」という書籍です。ちょうど8月末に出版したもので、Web3の時代が押し寄せている今、企業がAIを活用してDXをいかに立案して実行していくのか、AIはWeb3とどのように関係していくのか、そして10分野の社会課題について30以上の事例を紹介したものです。
大植は講演でまず、Web1.0、Web2.0、Web3と、現在に至るまでのテクノロジーやサービスの流れを説明したうえで、そしてWeb3登場の意義を強調しました。
「Web2.0までの世界は管理者がユーザーの情報を把握してサービスを提供し、結果的に大手ネット企業にユーザーの個人情報が蓄積されるなど、中央集権型でしたが、Web3の世界では大手ネット企業が強い影響力を持つ中央集権型モデルから分散型のインターネットを作るという大きな転換を図る時期に来ています。つまり価値観の変化が本質です」
こうした時代にエクサウィザーズがどのようにAIを活用した社会課題解決に取り組んでいるのか。大植が講演で強調したのが、社会課題解決のためのフレームワークの活用でした。
社会課題型のフレームワーク「BASICs」とは
大植は「今回の書籍の執筆過程で『BASICs』というフレームワークを開発しました。このフレームワークを活用することで、社会課題解決型の事業を行う上で、考案したサービスや製品において成果を出すためのポイントを見落としていないかどうかを確認できます。フレームワークというと難しそうですが、チェックリストと思っていただいていいです」と説明しました。
ではBASICsフレームワークとはどのようなものか。詳しくはエクサウィザーズのこちらのページで「exaBase BASICs」として説明しているのでぜひご確認いただきたいですが、単語のB、A、S、I、Cそしてsのそれぞれに意味を持たせています。
なかでも重要なのが「B」であり、Behavioral change(行動変容)があるような仕組みを盛り込むことを推奨しています。社会課題の解決にAIを適用する場合は、課題を抱える当事者の行動変容を促進する仕組みを組み込まなければなりません。そのためには、インセンティブの仕組みづくりも有効で、Web3の主要技術であるブロックチェーンのトークンなどによる報酬を創出し、参加者の行動を変えていくことができます。Web3とAIはここで関連が出てくる可能性が大きいとみています。
次に強調したのが「S」です。Scale&Continuous improvementを意味しています。「事業を広く展開し、拡大する一方、継続的に改善をし続ける作業も必要になります。アジャイル型(少人数のチームがフルタイムで参加して短期間に各段階のバージョンをリリースする)での開発を検討し、短期集中型での改善を目指す必要性がこれまで以上に重要となっています。Web3のDAO(分散型自律組織)と呼ばれる組織の仕組みに見られるように、インターネットを利用して、世界中から仲間を見つけることもできます。
「C」のCultivate data valueにおいては、単体では価値を持ちづらいデータであっても、複数を組み合わせることで初めて価値が出ることもあります。インターネットを介して、データの権利を守りながら組み合わせることで、新たな価値を生み出すことが可能です。
その後大植が説明したのが、AI活用の新たなモデルです。これまでのAI活用の多くは「データ分析モデル(データを蓄積→データ分析→サービス反映)」という手段が取られています。ここには人手が多くかかっています。
これに対して大植が示したのが、「AIぐるぐるモデル」です。「多くのデータ→アルゴリズムを改善→サービスを改善→利用者増加、というAIが自律的にサービスを改善していく手段が、米国のテクノロジー大手で価値を創出する手段として採用されるようになっています。これをAIぐるぐるモデルと呼んでおり、日本でも一般企業にエクサウィザーズが支援して導入し始めています」(大植)。これはBASICsフレームワークのCを実装したものと言えるでしょう。
その後、大植は書籍に掲載した30の事例のうち代表的なものを2つ説明。「Web3とAIの技術を掛け合わせた課題解決の事例が生まれている。イノベーションに関してはまだまだ始まったばかりなので、どういう風にビジネスとマーケットが変わっていくのか注目してほしい」と述べ、「Web3とAIの関係性について、AIビジネスにはポジティブな方向にいくと考えられるので、これまで以上にAIの重要性が増していくのではないでしょうか。ぜひビジネスの場でBASICsが機能しているかにも注目してみてください」と締めくくりました。
大学ビジコンの審査に参加し、ビジネスプランを磨き上げる
大植が講演の後に向かったのが、大学ビジコンの決勝大会です。全国の大学から予選を勝ち抜いた6チームが進出しており、大植は審査員として参加し、学生たちとビジネスプランについて議論を重ねました。エクサウィザーズ社内の事業責任者との会議のように、顧客ターゲット、想定シェアを確認したうえで、ビジネスモデルを磨き上げるアドバイスをしていました。
慶應義塾大学・法政大学のチームである、e-lamp.は、心拍数に合わせて光るイヤリング型のデバイスを開発し、感情を可視化することで新しいコミュニケーションを図るという取り組みを提案しました。
「ユーザーのデータの帰属は誰になるのか?」(大植)との質問に対して、「せっかく取ったデータなのでどうにか使いたいと考えている。同意を得たユーザーの心拍数の変化を特定の場所、例えばテーマパークなどに売って、ユーザーには現地で何かしらの割引を受けられるようにはできるかと思う」(大学生)といったやり取りがありました。
そして、大植は「ハードだけで成長させるのではなく、データを競争優位にさせておくと大手が介入してきてもベンチャーの勝ち筋があるかもしれない。Web3的な発想で、ユーザー側にインセンティブを還元される仕組みを考えられないか。色々切り口があり面白いプランだと思う」とコメントしました。
筑波大学のSeedは、発達障害の子どものために、AIやARを活用した学習教材の開発を提案しました。発表者は実際に自分が発達障害の子どもの家庭教師を務め、独自に学習方法を考えた経験なども交えて、子ども一人ひとりの知能検査の結果をAIで分析し、ARを導入して勉強への没入感を醸成するなどその子どもに合った学習教材を作成するプランを紹介しました。
大植は、「検査で得られた子どもたちのデータをどう活用し、戦略に組み込んでいくのか」と尋ね、Seedの大学生は「知能検査を研究している教授とデータを使って分析をしていきたい。1万件くらいは取れるのではないかと考えている」とやり取りをしました。
法政大学と白百合女子大学のチームであるマッフグは、隠れた才能を持ちながらも十分にアピールできる場がない就活生などを対象としたオーディション番組の開催や、動画配信サイトの設立を提案していました。海外のタレント発掘オーディション番組をイメージし、自分の強みや特技を存分にPRできる場を提供したいというプランを熱く語りました。
これに対して大植は、ターゲットの規模感を尋ね、ビジネスとして成り立つのかを確認したうえで、「弊社もそうだが、企業側でも就活ではいわゆる“隠れたスター”をなんとか見いだそうとしている」と、企業と学生の間のアンマッチの解消に着目すべきとアドバイスしました。
その後、審査を経て表彰式が行われ、イヤリング型デバイスを提案した、e-lamp.が2番目にあたる優秀賞を獲得しました。大植は同チームに「若い方から出てくるアイディアや感性であり、斬新な発想で面白い。あとはビジネスの広がりとしてデータの獲得から色々な展開があるなとワクワクしながら聞いていました」とコメント。
その上で、「決勝のプレゼン時に『僕は買わない』と言ったが、量産されたらぜひ最初に購入したい」と話し、会場の笑いを誘っていました。
みなさん、ここまで読まれてお気づきになられた方もおられるかもしれませんが、大植が各チームに質問した内容の多くはBASICsフレームワークに基づいたものでした。特に「C」によるデータ価値の創造がポイントとなっています。
BASICsフレームワークはエクサウィザーズのこれまでのノウハウをまとめたものであり、さまざまな分野のビジネス活用のチェックリストとして活用可能です。大植が執筆した書籍「Web3時代のAI戦略」には、その詳細な解説と、活用事例が数多く掲載されています。
ぜひ本書を手に取っていただき、エクサウィザーズにも興味を持っていただけたら幸いです。約30の事例では、エクサウィザーズにおけるAI活用の社会課題解決である、高齢化問題を解決するプロダクト、ぐるぐるモデルの物流企業への実装、製造業におけるベテランのスキルの継承などを紹介しています。購入は書店のほか、Amazonからお願いいたします。