AIの価値を最大化するデザインの役割
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AIの価値を最大化するデザインの役割

エクサウィザーズ  HR note

木浦幹雄です。エクサウィザーズのデザインチームとともに、デザインの力でプロダクトやクライアントとのプロジェクトの価値を高めながら、ミッションである「AIを用いた社会課題の解決」に取り組んでいます。私自身はかれこれ10年以上にわたりデザインの領域で仕事をさせて頂いており、最近はデザインの中でも特にデザインリサーチやUXリサーチと呼ばれる領域を専門としています。

デザインリサーチやUXリサーチはプロダクトやサービスをデザインするためのリサーチのことです。残念ながら日本国内においてはまだ知名度が低い分野ですが海外企業の求人情報を見てみると当然のようにポジションが存在しており、現代におけるデザインプロセスの根幹をなすものとなっています。

なお一昨年に「デザインリサーチの教科書」(https://www.amazon.co.jp/dp/4802511779/ )をBNNより上梓させていただきましたので、デザインリサーチについては興味がある方はぜひ手に取っていただけると嬉しいです。

なんでこの記事を書こうと思ったのか:
AIとデザインで価値を提供する

エクサウィザーズはAIで社会課題を解決する会社です。本稿ではAIとは何か?について詳細に議論することはしませんが、AIの構成要素を分解していくとコアとなる技術要素としてはサポートベクターマシンやブースティングあるいはディープラーニングなどに代表されるようなアルゴリズムのことであり、このアルゴリズムと人々や社会とのインタラクションをデザインし利用可能な形で提供することによって様々な課題が解決可能である点については、多くの方にイメージいただけるのではないかと思います。

課題を解決するためには精度、処理速度、フットプリントなどの観点から優れたアルゴリズムを開発することにくわえ、人々や社会とAIとのインタラクションを適切な形でデザインすることも重要なポイントです。エクサウィザーズのデザインチームはまさにこの部分、つまりAIを用いて現実世界で課題解決を図る上で必要不可欠な役割を担っています。

なお「インタラクションをデザインする」というと「アプリケーションのUIをデザインすることでしょ?」とイメージされてしまいがちですが、インタラクションをデザインするとは表層としてのアプリケーションのUIに限定した領域ではなく、人とプロダクトがどのようにコミュニケーションをするかをデザインすることと言い換えても良いでしょう。

下記の図は私の出身校であるCIIDの教授の一人であるBill Verplankがインタラクションについて示した図です。

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Interaction Design Sketchbookby Bill Verplankより引用)

この図はサービスが人々あるいは社会とどのようにインタラクションを取るかについて簡潔に示しています。右側の球体のようなものがサービスであり、サービスは人々に対してなんらかの情報を提示します。そして人はそれを解釈し、サービスに対して情報を与えます。ここで、人にどのような情報を提示し、理解させ、どのような情報を入力させるかが、人々とサービスのインタラクションであり、エクサウィザーズのデザインチームの担当領域となります。

AIで社会課題を解決するためには、適切なインタラクションをデザインする必要があると述べましたが、そのためにはどのようにすれば良いのでしょうか。それは作り手の都合や思い込みでサービスを作って人々や社会に「はいどうぞ」と押し付けるのではなく、人々や社会を理解した上で、彼らにとって意味のあるものを作ることです。

AIを活用することによって、これまでは実現不可能だった様々なサービスを作ることができます。一方で、ただAIを活用しても仕方がありません。技術的に実現可能であることと、人々や社会にとって価値のあることが常にイコールとは限らないし、それが事業として価値のあるものなのかどうかも重要な検討項目です。

私たちの目的はAIを使うことではなく、課題を解決することです。このことを軽視しては本当に意味のあるサービスを作ることはできません。では、人々や社会にとって本当に意味のある形でAIを活用し、課題を解決するためにはどうすれば良いのでしょうか。

AIの価値を人々や社会に届けるためにデザインができること

私はこれまで多くのAI x デザインに関するプロジェクトに従事してきました。私のこれまでの経験をもとに、AIの価値を人々や社会に届けるためにデザインができることについて、ご紹介します。

人々や社会を理解することで解決すべき課題を定義する

AIを活用することで、様々なサービスを作ることができますが、そのためにはAIを使って解決しようとしている課題は何なのかを適切に定義する必要があります。「作れるから作る」ではなく「そこに課題があり、解決する価値があるから作る」でなければなりません。そしてその課題は妄想や思い込みで設定した課題ではなく、そこに実在する、あるいは近い将来高い確率で現れるであろう課題であるべきです。

例えば、画像に対するAI、いわゆるコンピュータビジョンと呼ばれる技術領域の中に特定物体認識と呼ばれ、あらかじめ登録された物体を画像中から認識する分野があります。特定物体認識技術を使うことで画像や動画の中から人の顔や、猫、自動車など、あらかじめ登録した様々な物体を認識することができます。

特定物体認識アルゴリズムを利用して様々なサービスのアイデアを思いつくことができますが、実際に開発する前に、これに何の意味があるかを適切に問う必要があるはずです。例えば、画像をアップロードすると写真の中からあらかじめ登録されたターゲット(ヒト、猫、犬、魚など)を認識して四角い枠で囲んでくれるスマートフォンアプリを作ることは技術的に難しいことではありません。あるいは商業施設などに設置された無数の防犯カメラの映像からあらかじめ登録されたターゲットが映ったシーンだけを抽出するサービスを作ることができるかもしれません。

しかし、その特定の物体を抽出することによって解決したい課題はいったいどのようなものでしょうか?そしてその課題はどの程度大きいものでしょうか?あるいはそのサービスに毎月お金を払ってくれる人はどれぐらいいるでしょうか?必ずしも大儲けする必要はないかもしれませんが、システム開発や運用にはある程度の費用が必要である以上、これらの問いについて答える必要があるでしょう。

解決すべき課題を明確にせずにサービスやプロダクトを作りはじめても「それっぽいものはできたけどこの後どうしたらいいんだろう?」のようなことになってしまいかねません。プロダクト作りのプロセスにおいては「良いプロダクト」を目指して開発を進めていくわけですが、解決すべき課題が明確でない場合は「良いプロダクト」を描くことができません

あるいは複数人からなるチームの場合、チームメンバーそれぞれが頭の中に「良いプロダクト」のイメージがあったとしてそれがバラバラである場合、チームとしてパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。「良い車」を作ろうとした時に、ある人は高速に移動できるスポーツカーをイメージして、ある人は大量の荷物を運べるトラックをイメージし、ある人は大量に人を運べるバスをイメージしていたら、きっと完成する車はチグハグなものとなってしまうでしょう。

「良いプロダクト」を作るためにはまず「良いプロダクトとは何か?」をチーム内で認識を合わせる必要があります。そうしなければ「とりあえず動くものを作ってみたけど今後どうすれば良いか?」のような状況になりかねません。

私たちデザイナーはサービスやプロダクトの見た目を整え好感度の高いものにすることの専門家であると思われがちですが、人々や社会を理解することのプロフェッショナルでもあります。インタビューや観察、ワークショップなどを通して人々がどのように生活しているか、働いているか、あるいは遊んでいるかなどを理解し、人々が抱える課題を見出し、解決すべき課題を定義します。そしてこのプロセスを経ることによって良いプロダクト像が見えてくるのです。

プロトタイピングを通じて課題の適切な解決方法を見出す

解決すべき課題を定義したら、ソリューションの妥当性を検証する必要があります。一般的に、一つの課題を解決するためには複数の方法があります。社会にある課題のうちの全てがAIによって解決されることが最適であるとは限りません。中には法整備によって解決を図ることが妥当な課題も存在するでしょうし、テクノロジーではなくコミュニティの力で解決すべき問題もあるはずです。

目の前にある課題がAIによって解決されるべきであるならば、人々や社会とAIとのインタラクションを検討します。システムへの入力としてどのようなものが適切か。そしてユーザーに対する情報提示はどのようなものが適切でしょうか。音声で入力することもできるし、スマホのタッチパネルで入力することもできるでしょう。ソリッドなUIによって情報を入力すべきシーンもあるでしょうし、あるいは室内に設置されたセンサーやカメラによる映像認識技術を活用することもできるはずです。

ユーザーへの情報提示方法についてもさまざまな方法が考えられます。スマートフォンアプリの形態を取るのであれば画面内に情報を提示することもできるでしょうし、音声や振動を利用して情報を提示することもできます。室内にあるスマートテレビやスマートスピーカなどのデバイスを介してユーザーに情報を提示することもできるでしょうし、ロボットやなんらかの専用デバイスを用意することもできるはずです。あるいは必ずしも人工物が直接ユーザーに情報を提示しなくても、他の人を介在して情報を提示する方法もあるはずです。

これらさまざまな選択肢のうち何が適切であるかは、結局のところ実際に課題を抱えている人々に聞いてみなければわかりません。なぜなら彼らは彼ら自身の課題についての専門家だからです。私たちデザイナーが「こんなふうに解決されたら嬉しいはずだ」のように議論を繰り返すよりも、彼らに話を聞く方が有益な知見を得られることは多くあります

私たちデザイナーはこのような考え方を「プロトタイピング」と呼びます。プロトタイピングは非常に広い意味をもつ言葉ですが、特にデザイン業界ではプロトタイピングを仮説検証の意味で使います。このフェーズにおける仮説とは「きっとこのようなインタラクションがあれば、人々はAIの価値を適切に享受できるはずだ」のようなものだと考えて頂くのが良いかと思います。プロトタイピングを通してどのようにAIが使用されるか、どのように課題が解決されると嬉しいのかを見定めます。

プロトタイピングには検証すべき課題によってさまざまな方法があります。私が普段使用するものを列挙するだけでも、ペーパープロトタイピング、figmaなどによるモックアップ、アクティングアウト、オズの魔法使い、ビデオプロトタイピング、ラピッドプロトタイピングなどがあります。いずれにしても重要なことは、まずは低いクオリティ(Lo-FiあるいはLow-Fidelity)のものを時間をかけずに具体化し、検証を進めるにつれて高いクオリティ(Hi-FiあるいはHight-Fidelity)へと検証プロセスを進めていくことです。

これはAIのアルゴリズムに例えるならば深さ優先探索ではなく、幅優先探索と考えることができます。まずは浅く広くさまざまな可能性を検討し、深く検討を進めるのは良さそうな方向性を見出してからです。これによってコストを最小化しながらクイックにプロジェクトを進めることが可能になります。

AIに求めるスペックを見出す

プロトタイピングを通じて確からしいソリューションを見出したあとは、適切なスペックを見出す必要があります。AIの精度は高ければ高いほどよいと思われがちですが、実際のユースケースを考えると、それなりの精度があれば十分に実用可能で、むしろ高くてもあまり意味がないケース、あるいはむしろ精度が高いことによって弊害のあるケースが存在します。

例えば、医療用AIで人の体内にある臓器の位置を推定するAIがあったとしましょう。実際に開腹手術をする前に体内の様子を確認することができるので、手術前により詳細な術式検討が可能になるでしょうし、適切な位置にメスを入れることができるようになることで患者の負担も最低限にすることができるかもしれません。

一方で、このAIに求められる精度はどの程度でしょうか。仮に0.01mmの精度で現時点の臓器の位置を推定できたとしても、我々は呼吸もするし、ちょっとしたことで臓器の位置は変わることもあります。そうするとある時点での臓器の位置を0.01mmの精度で特定したとしても意味はないかもしれません。

そうすると、0.01mmの精度は必要なく、もっと低い精度でも良いかもしれません。精度が低くても良ければ開発コストも抑えることができるかもしれませんし、処理に必要なコンピューティングリソースも少なく済むでしょう。0.01mm精度で臓器位置を推定するために10秒の処理時間がかかっているものが、0.1mm精度や1mm精度での推定であれば10fpsで映像のような形で出力することができるようになるかもしれませんし、スキャンから情報提示までの時間を大幅に短縮することができるようになるかもしれません。どのようなスペックのシステムがユーザーにとって本当に意味があるかについてを理解した上で、AIアルゴリズムの開発チームと連携する必要があります。

音声認識処理で文字起こしをする場合はどうでしょう。一般的に、音声認識精度は高ければ高いほど良いと思われがちですが、必ずしも100%の精度でなくても十分に実用的なシステムを作ることは可能です。例えばサービスによっては一言一句単語を認識できなかったとしても、大まかに何のトピックについて話をしているかわかればOKの場合もあるでしょう。あるいはユースケースによっては精度よりも提示までの処理速度が重要な場合もあるでしょう。その場合は音声認識処理をクラウド側で処理するのではなく、ローカルで処理することが求められるかもしれません。その場合はメモリフットプリントやCPU性能などが制約として求められる場合もあるでしょうし、特にモバイル機器の場合であればCPUに負荷をかけることによるバッテリー持ち時間への影響も考慮する必要もあります。ハードウェアを制作する場合は高性能なCPUを載せることによって製品コストへの影響も避けられないところですからこれについても十分に検討した上で、ちょうど良いバランスを見つけ出さなければなりません。

これらAIに求めるスペックは、人々や社会が抱える課題を正しく理解した上でインタラクションをデザインする中ではじめて見えてくるものでもあり、このスペックに対する認識をデザインチームとAI開発チームで適切に共有することで正しいものを正しく作ることができるようになるでしょう。

まとめ

AIを利活用することで様々なプロダクトやサービスを実現することが可能になっていますが、それを適切な形で顧客に届けるためにはデザインの力が必要不可欠です。ここにおけるデザインの力とはプロダクトの見た目を整え好感度の高いものにするような狭義のデザインではなく、例えば、人々や社会が抱える課題を適切に定義すること、課題を解決するためのソリューションを検討すること、そして開発すべき(あるいは開発中の)AIのスペックを検討することなどが含まれています。

エクサウィザーズは課題ドリブンで様々なAIの開発をしながら社会課題の解決を目指しており、私たちデザインチームはそのAIの価値を最大限に高めて社会に届けるべく、日々奮闘しています。AI x デザインで社会にとって意味のあるプロダクト作りに関わることに興味のある方は、一度私たちとカジュアルに話をしませんか?ぜひお気軽にご連絡ください。


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