完全リモート下で進められたエッジAIカメラ「ミルキューブ」開発の裏側──緊急事態宣言による“会えない”環境で多拠点開発
画像解析×カメラのアイデアから、開発されたエッジAIカメラ「ミルキューブ(現名称:exa Base エッジカメラ)」。開発に立ちはだかったのは、海外を含む多拠点体制、緊急事態宣言による“会えない”環境、そして不確実性への挑戦でした──。
エクサウィザーズで活躍する“ウィザーズたち”を紹介するストーリー。
今回は開発チームである土倉さんと玉城さんが登場。開発から現在に至るまでの日々を振り返ります。
海外を含む多拠点開発を推し進めるコツ
ーそもそもミルキューブとはどのようなサービスなのかを教えてください。
土倉さん:「ミルキューブ」とは、高性能2眼レンズ搭載の10cm四方のキューブ型エッジAIカメラです。通常カメラを使った画像解析は、撮影したデータを一度全てサーバーへ送って処理しますが、ミルキューブではカメラ本体内で、エッジ処理によって画像解析を行います。そのため、台数を増やして設置しても、サーバーへの負担が低いのが特徴です。
使用シーンは様々で、保育園でお子さんのベストショットを撮影したり、美術館や博物館などで三密状態を可視化したり、スポーツの特性に合わせてプレー上達のための効果的な情報を提供できます。
エクサウィザーズでは、ミルキューブの開発前からセキュリティカメラをはじめとした、既存のカメラの中にあるデータ処理・解析を手掛けていました。そんな中「自社でカメラを持っていたほうが解決できる社会課題の幅も広がり、ビジネスもスケールできるのでは」という考えがあり、2019年8月ごろから開発を始めました。
2020年5月にミルキューブが完成し、その後、6月から現在にかけてクライアントと実証実験をくり返しているところです。
ーミルキューブは東京・京都・インドの3拠点で開発をしていますよね。グローバルで開発に取り組むに当たり何を意識していましたか?
玉城さん:チーム全体で気をつけていたのは、認識合わせですね。エンジニアメンバーについては、週1回ペースで進捗やゴールの意識合わせをするための定例を実施。細かな技術レベルの話や悩みは、社内チャットを使って話し合っていました。
土倉さん:認識合わせは、特に意識していた部分です。エンジニア以外のメンバーも集まる全体定例は月1回ペースで実施し、事業の成長具合を知ってもらうためエンジニアにも営業の成果を話していましたね。
基本的に英語でのコミュニケーションになるので、細かな認識のギャップも生まないよう、時にはしつこいくらいにすり合わせは行っていました。
ーインドメンバーとはリモートであるだけでなく、コミュニケーションできる時間も限られているため、国内メンバーだけでリモート開発を行うより難易度が高いように思います。開発の成功のために、どんな取り組みをしていましたか?
玉城さん:とにかくモチベーションが高い状態で働いてもらうことを意識していました。
インドメンバーはみんな、とても好奇心が強いんです。新しい技術をどんどん提案してくる。僕としては、彼らの好奇心を弱めないように意識していました。細かいところで言うと、提案に対しては即座に反応を返したり。相手にとって心地よいコミュニケーションを心がければ、さらに色んな提案を出してくれますし、彼らの中で技術的知見が増えることは、スキルアップにもつながります。
それに対して、自分自身の技術に対する理解度が低ければ、彼らの技術をビジネスサイドに正しく伝えることができず、せっかく提案してもらったのに使えないということもあります。そのため、日々自分自身のスキルを磨くことも怠らないようにしています。
また、上下関係を感じさせない話し方を意識して、限られた時間でもコミュニケーションが取りやすいようにしていました。
「状態の可視化」と「会議体の細分化」で“会えない”環境を乗り越える
ーこうした取り組みを続けてきた中で、新型コロナウイルス感染拡大防止のために「緊急事態宣言」が発令されました。以前からリモートでのやりとりがあったとはいたとはいえ、開発にも影響があったと思います。どんな打ち手をとったのでしょうか。
土倉さん:WEB会議システムを使ったり、会議の種類を増やしてみたりしました。各拠点ごとに定期的に顔を合わせる機会が減り、カジュアルに雑談できる場などがなくなったことで、一時期はコミュニケーションが停滞していたんですね。
当時使っていたWEB会議システム「Remo(リモ)」では、プロジェクト開発について話す部屋、雑談部屋など、用途ごとに部屋を分けました。さらに、「業務開始時に必ずログインする」とルールを決め、メンバーが使ってくれるような工夫もしていました。おかげで、メンバーのステータスを可視化でき、コミュニケーションのハードルが下がりました。
(WEB会議システム「Remo」を使っていたときの様子)
玉城さん:特にインドメンバーに関しては、誰がいつ仕事を始めているのかだけでなく、ランチのタイミングすらわからなかったんですよね。用途ごとに部屋を設置し、各自が何をしているのか把握できるようになったのは非常に良かったと思います。
ー部屋によって話す話題や方向性がはっきりしていると、お互いに右往左往せず、情報整理もできそうでいいですね。
土倉さん:コミュニケーションの目的に応じて会議の種類を増やしたことも効果的でした。チーム内で認識共有のためにしっかり話したい時もあれば、雑談ベースでカジュアルにブレストをしたい時もあります。でも、リモート環境下だと、ちょっとした立ち話ベースでのディスカッションがしにくい。
そこで実施したのが、「カジュアルに話す場」「オフィシャルに話す場」「オフサイト」「ブレスト」など、会議の種類を分けること。
例をあげると、週1回の定例は「オフィシャルに話す場」として、プロジェクトの進捗や振り返り、ディスカッションを行う。そこで気づいたことは、その場では話さずに、カジュアルに話す場として設定した会議で雑談するように話し合う。緊急事態宣言が解除された今では、会って話したほうがいい内容は、頻度を決めて対面で会議を実施しています。リモートと対面のハイブリッドで、生産性はぐっと上がりました。
玉城さん:会議で気づいたことは社内チャットにも書き出すようにしています。それをきっかけに、雑談が生まれますので。設定した会議時間より早く要件が終わったら、たとえ10分しか実施していなくても解散します。数ある会議を形骸化させないための、大事なポイントです。
「初めからうまくいくチームなんてない」「共通イメージがあるから乗り越えられる」
ーミルキューブは現在、実証実験を行いながら課題・ニーズを抽出し、プロダクトを磨き込んでいるところですよね。ミルキューブのような、誰にもノウハウがなく、使い方を模索していくプロダクトをクライアントを巻き込みながら進めるためにどんな取り組みをしていますか。
土倉さん:「ミルキューブを使うとどうなるか」のイメージ共有を大切にしています。そもそも、画像解析を含むAI技術自体が、まだ一般的には浸透しきっていない領域です。クライアントともリモートでディスカッションしていますが、対面に比べると何ができるのか、伝わりづらいところも多い。そこで、プレゼン用動画などを用意し、情報の齟齬が起こらないようにしています。
また、クライアントとのイメージすり合わせのために、彼らの立場になったつもりでエンジニアたちに「これはどういう意味?」と質問し、サービスの良さを非エンジニアにもどうしたらわかりやすく伝わるかは日々考えています。
玉城さん:クライアントと私たちだけでなく、ビジネスサイドとエンジニアサイドで、ゴールイメージをすり合わせることも大切にしています。机上だけの議論では話の決着がつきにくいところでもあるので、アウトプットをベースに「何をやるべきで、何をやるべきではないのか?」を話し合うようにしています。
ー今後も試行錯誤をしつつチームを作っていくと思いますが、これまでを振り返ってみていかがですか。
土倉さん:思ったのは、初めからうまくいくチームなんてないということ。僕らとしても、いろいろな葛藤がありましたし、それは今も続いています。でも、僕らには共通する「目指すべき姿」がある。だから、意見の対立や悩みを乗り越えられています。
玉城さん:そうですね。最初から正解を出すのは非常に難しいです。これからも、メンバーで話し合いながら、僕らなりの答えを模索していきたいですね。
土倉さんと話してみたい方はこちらからご連絡下さい:
文:福岡夏樹 編集:稲生雅裕